記事ヘッダー画像 / 800V高電圧ハーネスシステムのイメージ

なぜ800Vが必要なのか

電気自動車(EV)の普及を阻む最大のハードルの一つが、充電時間です。現行の400Vアーキテクチャでは、バッテリーの80%充電に約30分を要します。これをガソリン車の給油並みに短縮するため、自動車業界は800V高電圧アーキテクチャへの移行を加速させています。

800Vシステムでは、同じ電力を半分の電流で伝送できるため、充電時間は大幅に短縮されます。最新の800V対応車両では、10分間で10%から80%まで充電可能な性能を実現しています。同時に、ケーブルの細径化による軽量化、駆動モーターの高効率化など、車両全体の性能向上に寄与します。

800Vがもたらす技術的課題

しかし、電圧を倍増させることは、ハーネスシステム全体に根本的な設計変更を求めます。400Vから800Vへの移行は、単なるスペックの数字の変更ではありません。

絶縁性能の確保

800V環境下では、絶縁破壊のリスクが飛躍的に高まります。コネクタの沿面距離・空間距離の設計基準を根本から見直す必要があり、使用する絶縁材料にはこれまで以上の耐電圧性能が求められます。住友電装は、独自の絶縁材料開発により、DC1000V以上の絶縁耐圧を確保した高電圧コネクタを実現しています。

熱マネジメント

大電力を扱う高電圧回路では、接続点における発熱管理が極めて重要です。端子の接触抵抗をミリオーム単位で制御し、長期使用における酸化・劣化を防止する表面処理技術が不可欠です。住友電装は、独自の銀合金めっき技術により、10年・15万kmの使用環境でも安定した低接触抵抗を維持する端子を開発しています。

安全機構の実装

高電圧システムでは、整備時やクラッシュ時の感電防止が人命に関わる最重要課題です。HVIL(High Voltage Interlock Loop)回路によるコネクタの嵌合状態監視、BBM(Break Before Make)機構による安全な通電遮断など、多重の安全機構が必要となります。

図解: 800V高電圧ハーネスシステムの安全機構構成図

住友電装の800Vソリューション

比較項目400Vシステム800Vシステム
充電時間(10%→80%)約30分約10分
最大充電出力150 kW350 kW以上
ケーブル径(同等電力時)基準約30%細径化
システム効率基準約3〜5%向上
絶縁耐圧要件DC600VDC1000V以上
安全規格ISO 6469ISO 6469 + LV216対応

高電圧ハーネス

アルミニウムパイプを採用した床下パイプハーネスは、電磁シールド機能、飛び石からの電線保護、放熱性を同時に実現します。金型不要の加工技術により、車種ごとの形状最適化にも柔軟に対応。開発リードタイムの短縮にも貢献しています。

高電圧コネクタ

HVIL機能を内蔵した高電圧コネクタは、嵌合・離脱のすべてのフェーズで安全を確保します。BBM機構により、メンテナンス時の通電状態でのコネクタ離脱を物理的に防止。IP6K9K相当の防水性能により、車両下部への搭載にも対応しています。

OEMパートナーとのプラットフォーム共同開発

800Vアーキテクチャの導入は、ハーネスシステム単体ではなく、車両プラットフォーム全体の設計と密接に関わります。住友電装は、複数のグローバルOEMパートナーと早期段階から共同開発体制を構築し、プラットフォームの電気アーキテクチャ設計に参画しています。

2025年度には、欧州およびアジアの主要OEM3社の次世代EVプラットフォームに800V対応ハーネスシステムの採用が決定。車両開発の上流段階から参画することで、ハーネスの最適配索とシステム全体のコスト効率化を両立させています。

安全規格への対応

高電圧システムの安全性は、国際規格によって厳格に規定されています。住友電装の800Vソリューションは、ISO 6469(電気自動車の安全要件)およびドイツ自動車工業会のLV216規格に準拠。加えて、各OEMパートナー固有の安全要件にも個別対応し、認証取得を支援しています。

今後の展望

EV市場の成長とともに、800Vアーキテクチャは次世代EVのスタンダードになりつつあります。住友電装は、さらなる高電圧化(1200V級)への技術蓄積を進めるとともに、SiCインバータとの統合ソリューション開発にも着手しています。パートナーの電動化戦略を、電力供給の根幹から支え続けます。

執筆者: 技術開発本部 電動化システム開発部
監修: 高電圧製品技術グループ

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