ワイヤーハーネスの「重さ」という課題
自動車の軽量化は、燃費向上とCO2削減に直結する最重要テーマの一つです。しかし、車両を構成する部品の中で、ワイヤーハーネスの重量問題は長年見過ごされてきました。
一般的な乗用車に搭載されるワイヤーハーネスの総重量は約20〜30kgに達し、ボディ、エンジン(またはバッテリー)に次ぐ第3位の重量部品です。CASE時代を迎え、センサー・カメラ・通信機器の搭載数が増加するにつれ、配線の総延長は伸び続け、ハーネス重量はさらに増大する傾向にあります。
EVにおいてはこの問題はより深刻です。車両重量の増加は、航続距離の短縮に直結するためです。1kgの軽量化が、約0.3kmの航続距離延長に寄与するとされています。
なぜアルミニウムなのか
アルミニウムの比重は銅の約3分の1(アルミ: 2.7 g/cm3、銅: 8.9 g/cm3)です。同じ電流容量を確保する場合、アルミ導体は銅導体より断面積を約1.6倍大きくする必要がありますが、それでも重量は銅の約半分以下になります。
ワイヤーハーネス全体でアルミ導体を適用した場合、ハーネス重量を最大約50%削減できます。これは車両全体で5〜15kgの軽量化に相当し、EVの航続距離にして約1.5〜4.5kmの延長効果をもたらします。
| 比較項目 | 銅ハーネス | アルミハーネス |
|---|---|---|
| 導体比重 | 8.9 g/cm3 | 2.7 g/cm3(約1/3) |
| 同等電流容量での重量 | 基準 | 約50%軽量化 |
| 導電率(IACS比) | 100% | 61%(断面積増で補償) |
| 素材コスト | 基準 | 約30〜40%低減 |
| リサイクル性 | 高い | 高い(再生エネルギー少) |
技術的課題 — なぜ今まで普及しなかったのか
銅-アルミ接合部の腐食問題
異種金属を接触させると、電位差によりガルバニック腐食(電食)が発生します。銅とアルミの電位差は約0.6Vと大きく、水分が介在すると接合部が急速に劣化します。車載環境では温度変化による結露や被水が避けられないため、この腐食対策が最大の技術課題でした。
接続信頼性の確保
アルミニウムは表面に緻密な酸化膜を形成するため、銅と比較して安定した電気接触を得ることが困難です。また、銅よりも柔らかいアルミ導体を端子に圧着する際、応力緩和(クリープ)により接触力が経年で低下するリスクがあります。自動車の10年・15万km以上の使用寿命にわたり、接続品質を保証する技術が必要でした。
圧着技術の革新
銅線用に最適化された従来の圧着端子と圧着工法は、アルミ導体にはそのまま適用できません。アルミ特有の物性に合わせた端子設計と、圧着条件の精密な制御が求められます。
住友電装の独自ソリューション
特殊端子めっき技術
住友電装は、銅-アルミ接合部のガルバニック腐食を防止する独自の特殊めっき技術を開発しました。端子表面に電位差を緩和する中間層を形成することで、異種金属接触による腐食電流を大幅に抑制。塩水噴霧試験1000時間以上の耐食性を実現しています。
超音波溶接技術
アルミ導体と端子の接合には、圧着に加えて超音波溶接技術を採用しています。超音波振動により、アルミ表面の酸化膜を破壊しながら固相接合を実現。金属間化合物の生成を抑えた高品質な接合部を形成し、10年以上の長期信頼性を確保しています。接合強度は、引張試験で銅圧着品と同等以上の水準を達成しました。
防食シール構造
コネクタ嵌合部には、独自設計の防食シールを装着。端子接合部への水分侵入を物理的に遮断し、ガルバニック腐食の発生を根本から防止します。-40度Cから+125度Cの車載温度環境下で、長期にわたるシール性能を維持します。
環境への貢献
アルミハーネスの導入は、車両使用時の燃費改善だけでなく、製造段階でのCO2削減にも寄与します。アルミニウムの精錬には多くのエネルギーを要しますが、再生アルミの利用や製造プロセスの最適化により、ライフサイクル全体でのCO2排出量を銅ハーネス比で約15〜20%削減できると試算されています。
車両1台あたりの軽量化効果を燃費換算すると、ガソリン車で年間約8〜12リットルの燃料削減に相当。車両の生涯走行距離(15万km)で計算すると、1台あたり約120〜180kgのCO2排出削減につながります。
量産化の実績
住友電装は、上記の独自技術を統合し、アルミハーネスの量産化に成功しています。現在、国内外の複数のOEMパートナー向けに、ボディ系ハーネスを中心としたアルミハーネスを量産供給中です。2025年度の出荷実績は、前年比約40%増を記録しました。
パートナーの環境目標達成を支援するとともに、素材コスト低減によるトータルコスト競争力の向上にも貢献しています。
今後の展望
住友電装は、アルミハーネスの適用範囲をボディ系からパワートレイン系へと拡大していきます。高電圧・大電流回路へのアルミ導体適用は、800Vアーキテクチャにおけるさらなる軽量化のカギとなります。2030年に向けて、パートナーの軽量化・環境対応目標の達成を、ハーネスの素材革新で支え続けます。
執筆者: 技術開発本部 材料技術開発部
監修: 軽量化技術グループ